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『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』

新宿バルト9にて。マドンナの新作。1930年台と90年台とを行ったり来たりしながら、「世紀の恋」と呼ばれた、英王エドワード8世と恋人ウォリスのエピソードと、彼らの物語に憧れを抱く現代女性ウォリーのエピソードとが交互に語られていく。時間軸の切り替わりはスムーズだし、映像や音楽の使い方はスタイリッシュであることを重視している感じだけれど、プロットの進行はゆったりとして堅実、安定したクオリティの作品だと感じられた。まず冒頭部ではDVや愛のない結婚生活のようすが映し出され、展開部では新しい出会いと新しい気づきとが描かれていき、最終的には、自らの意思による新しい一歩が踏み出される、ということになる。いかにも、インディペンデントな気質の女性監督の映画、という感じだ。

わかりやすい定形にのっとったタイプの作品であるので、これといって斬新なところはないのだけど、夫によるDVのシーンが何だか異様にハードなのが印象的だった。序盤に提示されるこのシーンが作品全体のシリアスさの基準を定めてしまっているため、その後にコミカルなシーンがいくつか提示されても、なかなか完全に明るいムード、開放的なムードにはならないのだ。このあたりのバランス感覚は、ちょっと微妙かな…という気もした。

陰鬱なDV夫と真逆の性質を持つものとして描かれるのが、夫のいる女性(ウォリス)に恋をして、そのために英国王の地位を自ら捨ててしまうエドワードだ。「愛する女性の支えなしには、私は国王としての義務を果たすことなどできない」と宣言する彼は、ものすごく純粋でひたすらに優しい(だけの)男だが、自分の選択が必ずしも幸福に結びつくものではないとわかっていつつも、自らの幸福のためにはその決断をしないわけにはいかない、というジレンマを抱えた人物でもある。ここがおもしろい。エドワードもウォリスも、ふたりがいっしょに居続けることがきわめて困難であることは認識しているし、自分自身がどこまで本気でそうしたいとおもっているのかについても、曖昧なままにしているようなところがある。だが、それと同時に、彼らはその困難な道を進んでいくことをほとんど唯一の選択肢として捉えているようにも見えるのだ。

この辺りの、最終的な決断に至るまでのふたりの内面については、はっきりと描写されることはない。ただ、おそらく、ここで描かれているのは、やみくもな恋の情熱とそれを阻む理性、という構図ではないのだとはおもう。本作で取り扱われているのはむしろ、何がなんでも自分の未来は自分の意思で選択してやるという意地であり、外部の事情なんかに自分の選択を曲げられてたまるか、というプライドや気高さであるような気がする。作中、DVシーンの次に暴力性を感じさせるのは、王室スキャンダルを追う記者たちのシャッター音だけれど、そこに対置されているのはふたりの間の愛というよりも、ウォリスというひとりの女性が持つ、外界に対する反発心や意思の力といったものなのではないか。そんなことをかんがえたりしたのだった。