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『ルビー・スパークス』

渋谷シネクイントにて。これはなかなかおもしろかった!長年のスランプから抜け出せないでいる小説家のカルヴィン(ポール・ダノ)は、ある日、夢に出てきた女の子を主人公に物語を書き始める。とってもキュートな彼女の名前は、ルビー・スパークス。作品を書いているあいだだけは、彼女に会える!ってわけで、寝食を忘れて書きまくるカルヴィンだったけれど、そんなある日、自分の創作であるはずのルビー(ゾーイ・カザン)が、現実世界に現れてきてしまう。自分の理想を完璧に体現しているルビーに、すぐに夢中になるカルヴィン。ふたりは共に暮らし始めることになるのだが…!

たとえどんなに自分にとって理想的な相手だとしても、その人のすべてを自分の望み通りにすることなど、誰にもできはしない。カルヴィンは「タイプライターひとつでルビーの"設定"を自在に変更できる」のだけれど、彼女がひとりの人間として人格を持ち、思考を持っている以上、カルヴィンであっても、彼女の生き方をコントロールしてしまうことなど、できはしないのだ。だから、ストーリーの進行に合わせてすこしずつ肥大していくカルヴィンのエゴは、当然のように、ふたりの関係を破綻させてしまうことになる。

人と人とのコミュニケーションっていうのは、決しておもった通りにはいかないし、むずかしい。自分がさんざん手間をかけたのに、相手にすこしも通じていないこと、相手によかれとおもってやったことが、まるで真逆の反応を引き起こしてしまうことなんて、いくらでもある。まったくもって甲斐がないし、疲れてしまう。でも、それでもやっぱり、人の幸せやよろこびっていうのは、その面倒くささ、やっかいさを乗り越えたところにしか存在しない。どんなに面倒でもややこしくてもうんざりさせられても、人は他者を求めずにはいられないし、他者と繋がるよろこびを一度味わったことがある以上、どんなに傷つけたり傷つけられたりしたとしても、そのよろこびを完全に諦めきってしまうことなんて、できはしないのだ。

まあそういうわけで、本作で扱われるテーマは、恋愛における支配欲やエゴといった部分に踏み込んだ、なかなかにシビアで生々しいものだ。けれども、そこはあの『リトル・ミス・サンシャイン』の監督、映像のポップな感覚や、ゾーイ・カザンのキュートさ、どんなにハードな場面であっても決してシリアスになり過ぎない音楽などが、プロットのシビアさをうまくコーティングしており、作品全体のバランスをポップな方に寄せることに成功している。見終わった後はきっと誰かと語りたくなる、広いレンジとバランス感覚を持った映画だとおもった。(あと、やっぱり、似たようなタイプの、『(500)日のサマー』とはいろいろと比べてみたくなるね!)