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『第9地区』

第9地区 (字幕版)

第9地区 (字幕版)

新宿ピカデリーにて。こいつは最高だった!映画を見るまえに薄目でちらっとだけ読んでいたレビューや感想の印象では、もっとずっとB級っぽい、ギャグ寄りの作品なのかなーとおもっていたのだけど、その期待はちょっといい方向に裏切られた感じだった。とにかくいいよ、この映画!

ヨハネスブルク上空に浮かぶ巨大シップ、エイリアンのグロテスクな造形、日本のアニメみたいな兵器の数々、ってイメージにはB級臭さがぷんぷんしていて、ついついB級ディザスター映画、B級モキュメンタリー映画的なはちゃめちゃな展開を期待させられてしまう。のだけど、本作はそんな手垢にまみれた、類型的でチープなガジェットをこれでもかって勢いで盛り込みながらも、じつはとても誠実に、"異質なものとの共生"について取り扱った作品でもあるのだった。まったくもって異質な他者を目の前にしたとき、人はどう動くことができるのか。

映画を見る観客は、ハイスピードで展開していく物語を追っていくうちに、いつしか主人公と共に心理的にはエイリアンたちの側に立っている自分に気づかされることになる。けれど、それは同時に、どこまでも異質なエイリアンたちに共感したり、共に手を取り合ったりすることができるようになるのは、主人公の経験するような極めてハードな、きわきわの状況にまで追い詰められてはじめて可能になることなのかも…、と気づかされることでもある。

自分と異なるものへの寛容さ、異文化の尊重、共存、共生。相手の存在を認め、何らかの関係性を取り結んでいこうと試みること。言葉にすればじつにあっけなく、じつにまっとうにしか聞こえないそれが、じっさいにはどんなに困難を伴うことなのか(しかしそれでいて大切なことなのか)。この映画は、かなり不気味で、でもちょっとキュートなエビ姿のエイリアンたちの姿を通して、そんなことを語っているようだ。

…って、そういうテーマやモチーフの奥行き、って部分でもおもしろいのだけど、この映画、全体にポップで、笑える要素がふんだんに投入さている上に、ストーリーの展開の仕方、ドラマの盛り上げ具合が本当にうまくて、俺はそこが何より素晴らしいとおもった。いかにも小市民的ないい人のおっさんが、3日間の地獄のような経験を通してまったく別人のように変化していき、最終的にはアドレナリン全開のドンパチシーンまでやってのける。しかしまた、もちろん彼にもまだ変わらぬところがあった…ってエンディングではほろりとさせてくるところなんかも、すごくうまい。よく練られた脚本と演出、そして勢い。文句なしに素晴らしい映画。