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本、映画、音楽の感想/レビューなど。

『(500)日のサマー』

渋谷シネクイントにて。これはかなりよく練り込まれた映画。恋愛にまつわる幸福感とそれに比例するように大きくなっていく痛み、倦怠期のもやっと感などのエッセンスを適切に抽出し、ひとつの物語として結晶させることに成功している。最高と最悪、すべてが輝いて見えるような高揚とひたすら重さだけを感じてしまう停滞とが、ふとしたはずみにがらっと入れ替わってしまうのが恋愛だとおもうけれど、その空気や気持ちの揺れ動きの描き方、見せ方がとにかくうまいなーと感じさせる作品だった。

主人公のトムとサマーが過ごした500日がランダムな順序で再生される構成も、季節感や音楽の使い方ひとつで心情や状況があからさまになる演出も、細かいところまで実にていねいに作られていて唸ってしまう。見る人は誰でもきっと、成就したりしなかったり、爽やかにいけたりどろどろになったりした自分の恋愛について、いろいろとおもい返さずにはいられなくなるんじゃないだろうか。

単にハッピーなだけのラブストーリーではないわけで、とくに関係が冷めてしまってからの2人のあいだの空気のリアルな手触りには、何度もぬあーとおもわされた。サマーがトムを見るその目つきに、うわ、この感じ身に覚えがある!とおもったり、最後に2人がベンチで会話するシーンのあの雰囲気なんかも、たしかにこれを自分も経験したことがあるな…とおもったり。

それと、ネットのあちこちでもすでに散々書かれていることだけど、どうしても書いておかないではいられないのは、サマーがトムに「わたしもスミス好きなの」って話しかけるあのシーン。そこでスミス好きアピールだなんて、反則っていうかもはや犯罪だろそれは!って言うしかない。ひとりエレベータに残されたトムの、むはっ、まじかよ…!って表情を見ながら、サマー、なんという魔性の女であることよ…と俺はおもったのだったけど、でもいま冷静にかんがえてみると、恋愛の振り子が大きく動き始めてしまうその瞬間ってのは、案外どんなケースでもこういう魔法みたいな瞬間があったりするものかもだよなー、なんて気がしなくもない。

ただ、俺はトムに肩入れし過ぎなのかもしれないけれど、サマーの"友達(=not恋人)宣言"については、まじで意味がわからない!とおもった。軽く怒りを覚えた、と言ってもいい。でも、人によってはまったく違う風に見えるんだろうなーということがこれほどはっきりしている物語もないわけで、とにかくいろんな人の感想を聞いてみたくなる作品だった。