Show Your Hand!!

本、映画、音楽の感想/レビューなど。

『恋する惑星』

ザ・シネマメンバーズにて。高校生の頃にミニシアター系の映画を見始めたころから、そのうち見ようーとおもっているうちに気がつけば20年あまり経ってしまっていたのだが(そういうことって、結構ありますよね?)、ようやく見れた。ウォン・カーウァイというと、個人的に『花様年華』のイメージが強く、もっと官能的でシリアスな作風かと勝手に想像していたのだけれど、もっとずっとポップでソフトで猥雑、90年代らしいごちゃごちゃ感のある映画だった。

作品の主な舞台となる返還前の香港の街並みやマンションの様子は、とにかく狭くて小汚くて構造もおかしくて、いかにもアジア的な雑駁さに溢れているのだけれど、それを撮影や編集の力でおもいきり幻想的でファンタジックに見せているのがさすがという感じだ。カラーパレットはサイケデリックでありつつもどこかシックだし、構図はいちいち絵画的に決まっているしで、とにかくぱっと見がわかりやすく格好いいというところがよい。

物語は前半と後半とでばっさりと分かれている。舞台となる街や扱われるモチーフ、登場人物たちの属性といった点では共通する要素があるものの、前後半でかなり違った雰囲気の作品になっているのだ。前半のクライムサスペンス的なノリはタランティーノっぽい感じだし、後半の不思議ちゃんをヒロインにしたファンタジックな雰囲気は『アメリ』を彷彿とさせられるしで、やはり本作はその後のいわゆるサブカルっぽい映画たちの源流的な作品だったんだろうなー、と感じたりした。

本作でいちばん素晴らしかったのは、フェイ・ウォンが、自身の歌う"Dreams"のカバーにのせて、恋する男の部屋に勝手に侵入し、模様替えをしまくるシーン。この映画でいつまでもおもい出すことになる場面というと、やはりこれしかないだろう。