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本、映画、音楽の感想/レビューなど。

『シェルブールの雨傘』

DVDで。台詞が全部「歌」で表現される、ミュージカル系映画だ(でも、踊ったりするわけではなくて、単純に、台詞が「歌」になっているだけ)。タイトルはかっこいいし、中身もキュートだしで、いい作品だった!

傘屋の娘(カトリーヌ・ドヌーヴ)と自動車修理工の青年(ニーノ・カステルヌオーヴォ)が恋に落ちる。ふたりでいればもう何をしていたって最高にハッピー、世界がきらきら輝いて見える…という幸福感を互いに抱きながら、将来を誓い合う。しかし、やがてアルジェリア戦争が始まり、青年は徴兵され、彼らは離れ離れに。戦後、ふたりはそれぞれの道を歩み、お互い別々の愛の形を見出していくのだが…!

上記のようなストーリーは、まあ他愛のない悲恋ものだといえばそうなのだけれど、とくに映画においては、"プロットが単純であること"="作品として退屈"ということにはならない。本作の場合、プロットがシンプルな分、映像と音楽(歌)とに注意が惹きつけられるようなところがあって、そのバランスがいい感じなのだ。

まず、映像について。水色、黄色、ピンク、オレンジなどなど、パステルカラーが散りばめられた画面は見ているだけでわくわくするようなたのしさがあるし、登場人物たち(というか、カトリーヌ・ドヌーヴ)の60年代な感じのファッションもいちいちかわいい。そして、よくよく見ていると、物語の流れと対応しながら、どの場面にも隙なく適切な色合いが散りばめられていることがわかってくる。たとえば、序盤の「恋に恋する」ような気分は、画面のカラフルさとマッチすることでものすごい多幸感を生み出しているけれど、エンディングの「感情を内に抑える」ようなシークエンスは、白と黒を中心としたシックなトーンでまとめられている。単に色使いが鮮やかということだけではなくて、全編が徹底した美意識に貫かれ、精緻にコントロールされているのを感じることができるのだ。(シーンによっては、ワンピースと壁紙の柄が揃えられていたりもする!)

そしてもちろん、音楽も素晴らしい。正直、俺は、ミシェル・ルグランの曲って、何か臆面もなくセンチメンタルだよね、甘すぎるし…なんておもっていたのだけれど、本作のクラシカルで品の良いストーリーにはこの甘々な感じがよく似合うのだ。台詞によって語られることのない気持ちが、音楽の盛り上がりによって表現されたりするのも、ベタだけどすごくいいなー、っておもわされてしまう。各登場人物たちによる「歌」も、フランス語の優美でまろやかな感じが遺憾なく発揮されており、洗練とか上品とかって言葉がしっくりくる。

そういうわけで、シンプルでオーソドックスな悲恋ものの物語を、これ以上ないくらいに趣味よくおしゃれに描き出した作品、というのが俺の感想だ。あと、カトリーヌ・ドヌーヴは最近の「大女優」的な貫禄あふれる姿しか知らなかったので、この頃(当時20歳)はこんなにキュートで初々しい感じだったんだね…とおもった。