ザ・シネマメンバーズにて。数年ぶりに見直したけれど、やはり本当に好きな作品。ある夏の日、ベルリンに暮らす30歳のサシャは突然倒れ、そのままこの世を去ってしまう。あまりにも唐突な彼女の死は、恋人のローレンスにとっても、サシャの妹ゾエをはじめとする家族にとっても、そう簡単に受け止められるものではない。傷を抱えたもの同士としての彼らの心の交流と、時間の経過が少しずつその傷を癒やしていく様子が静かに描かれていく。
物語は3部構成になっており、第1部はベルリン、2部はパリ、3部はニューヨークを舞台にしている。各部のあいだには1年の間があり、つまり、本作は3年間の夏の季節だけを切り取った映画になっている。夏が来るたびにサシャのことをおもい出さずにはいられない、ということと、それでも時が経つにつれ、少しずつ前に進んでいけるようになっていく、という感覚とが、主人公たちの表情やふるまいから、ほんの微かに感じ取れるようになっている。
ストーリー性は非常に薄く、サシャの死→ローレンスとゾエそれぞれの回復、という以外には、展開らしい展開もない。あくまでも淡々と彼らの姿を映し出していくだけなのだ。彼らの台詞にしても、物語を駆動させるような印象深い台詞などというものはほとんどないし、もっと言ってしまうと、あまり内容らしい内容もない。ただ、それでも観客によくわかる(ように感じられる)のは、彼らが互いをおもい合い、いたわり合っている、ということだ。それははっきりとした台詞や明快なアクションで示されるものではないのだけれど、画面に映し出される彼らの視線やふるまいからは、たしかに互いへのおもいやりが感じられるのだ。
そんなしんとした優しさとともに、夏の日の光、もわっと生温い空気、黄緑色に透ける木の葉、きらきらと輝く海、といったサマーフィーリングを感じさせるものたちが、主人公たちをふんわりと包み込む、本作はそんな作品になっている。とにかく説明的なところがまったくなく、物語の展開や台詞の格好よさ、おもしろさで観客の感情を揺さぶってやろう、といった企みもまるで感じられないところが素晴らしい。静かな音楽と16mmフィルムで撮られたノルタルジックな映像も相まって、どの場面もどこかリリカルで、ずっと見ていたくなるような心地よさのある映画になっている。