海辺の町が舞台で、少年と少女が主人公で…っていうと、『未来少年コナン』的なボーイ・ミーツ・ガールの甘酸っぱさが期待できそうなものだけれど、本作で描かれる恋愛は甘酸っぱいというより甘々過ぎな感じだ。なにしろ、主人公のドローヴ(♂)とブラウンアイズ(♀)の両想いフラグが物語冒頭からすっかり成立してしまっているので、読者はいまいちふたりに肩入れしにくいのだ。また、ドローヴは青臭く理想主義的な少年、って定番の感じでそんなに悪くはないものの、ブラウンアイズの造形は、おとなしい女の子ヒロインとして理想化するあまり、かなりのっぺりしてしまっているようにおもえた。
それに、物語の展開がこのふたりにとって甘過ぎる、というところもある。ドローヴは迫りくる大きな流れに対抗しようと奮闘する訳でもないのに、最終的には運よく救われてしまうし、同世代の友達との交流も、親や周囲の大人たちとの対立も、世界の急激な変化も、すべてこのふたりの純粋さ、正当性を強調するかのよう。雪に閉ざされてゆく世界は、ふたりの夏の思い出を美しいままに封じ込めるのだ…ってな具合の終盤の展開には、正直ちょっと香ばしいものを感じてしまった。要は、プロットのコントロールを重視するあまり、主人公たちが平面的になってしまっていて、魅力的でなくなってしまっているのだ。
そんないまいちなポイントがいくつかある本作だけれど、SF設定を生かした伏線の張られ方はきれいで、ラストの一文にまでしっかりと筋が通っている構成は美しかった。あと、主人公たちの愛やら想いやらでは世界はまるで動かない、ってところも、わりとクールでいいとおもったな。