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はてなダイアラー映画百選(『黒猫・白猫』(その2))

黒猫・白猫 スペシャル・エディション [DVD]

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すっかり遅くなってしまったのだけど、(申し訳ないです…)id:room_42さんからいただきました、バトンやります!

■はてなダイアラー映画百選
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%a4%cf%a4%c6%a4%ca%a5%c0%a5%a4%a5%a2%a5%e9%a1%bc%b1%c7%b2%e8%c9%b4%c1%aa

俺が紹介したい一本は、ユーゴの監督、エミール・クストリッツァの作品、『黒猫・白猫』です。こいつは自分にとってはもうもうほんとに最高な映画!…なのだけど、俺はクストリッツァの映画がとにかく好き過ぎなので、以下の文はその辺りをちょっと斟酌して読んでいただいた方がいいかもしれません…。

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『黒猫・白猫』がどういうタイプの映画なのか、ってことを言葉にするのは簡単だ。ドナウ川を舞台にロマの人々がどたばたと暴れまわるコメディで、強引なストーリー展開と強烈なキャラクター、ひたすら賑やかに鳴り続ける音楽でもって、彼らが生を全力でたのしむさまが描かれていく…!というところで大方まちがいないだろう。ただ、『黒猫・白猫』にはかなり独特なおもしろさや、よくわからない迫力、他では味わえないような濃厚さみたいなものがある。俺がこの映画に惹かれる最大の理由であるところのそれは、なんともいわく言い難いものではあるのだけれど、たぶん、映画全体にやり過ぎ感、すっかりたがが外れちゃってる感が溢れているところが大きいんじゃないかとおもう。

たとえば登場人物たちはどんなのかっていうと、『ストリート・オブ・ファイヤー』のビデオに合わせてがんがんに踊りまくっているシーンで初登場するヒロインに、『カサブランカ』の1シーンを繰り返し見てはにやにやしている前歯が一列金歯のゴッドファーザー、登場シーンの半分はラリってるか踊ってるかキレてるかって感じのマフィア、おかしな呪文を唱えながら永眠しようとするおじいちゃんに、オペラを歌いながら尻で釘を抜く女…ってな具合に濃いやつらばっかりだし、しかもそれを演じているのはほとんどが実際のロマの人々で、つまり素人だ。彼らが縦横無尽に駆け回る画面の大半は大量のガチョウやら車を食べるブタやらハトやら猫やらヤギやらでごちゃごちゃと埋め尽くされているし、ほとんど無意味にぶっ放される銃、爆発だってたっぷりある。そんな半ばカオスと化した映像をまとめていくはずのストーリーはと言えば、これが呆れるくらいにおおざっぱで、わざわざ書こうともおもえないくらい。だけどロマの人たちの濃密かつ欲望一直線な生き方は素晴らしいドライブ感に満ち溢れていて、引き込まれずにはいられない。ひとことで言うなら、とにかく全体的に強引で、テンションがひたすらに過剰なのだ。

そんなやりたい放題っぽい、物語、映像をさらにヒートアップさせていくのが、ノー・スモーキング・オーケストラの奏でる、ロマ音楽をベースにしたミクスチャー音楽だ。こいつもまた超ハイテンションで、もうとにかく踊るしかない!ってお祭り気分が溢れまくっており、この音楽の祝祭感が全編にわたって物語をグルーヴしては、生命力やたくましさ、きらきら感をしつこいくらいに爆発させていくことになる。そうしてどんな痛みも悲しみも、失われゆくいろいろな思いも、すべて包み込んでは猥雑でわけのわからないハッピーなものに変えていってしまうのだ。

そんな勢いに満ち溢れたこの映画はとにかくバカバカしい。おもいっきりバカバカしいのだけど、そのバカバカしさを一息で飛び越えていってしまうような、どこから沸いてくるんだかわからないくらいの生のエナジーと、何ともいいようのない幸福感がたしかにあって、俺は見るたびに胸もお腹もいっぱいになってしまう。生の喜び、なんてそうそう安易には使うことのできない言葉だけど、この映画の1シーン1シーンからほとばしりまくっているのは、まさにそれなのだとおもう。

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…って、俺はただ最高最高って言ってるだけな気がするのだけど、そういうしょうもない感想が似合う作品なんじゃないかなー、なんていう風にもおもわなくもない、そんな映画なんです。こんなにテンションの上がる、元気の出る映画は他にない、って言ってもいいくらい、自分にとっては特別な一本。

次にバトンを回したいのは、いつも熱いレビューが素敵な(そしてブログタイトルも熱い!)、「さよならストレンジャー・ザン・パラダイス」のid:tunderealrovskiさん!よろしくお願いします!きっとかっこいい映画を紹介してくれるはず!