描かれるのは、12歳にしてIQ180という天才少年、ヴィトス君(テオ・ゲオルギュー)とその家族の物語だ。天才の抱える孤独や、周囲の無理解、親の過剰なまでの期待、といったわりと既視感のある問題を軸に、ストーリーは展開していく。テーマや物語の展開、キャラクターまで、全体的にありふれた感じで通俗的でもあるのだけど、でもそれをくだらないって言うんじゃなくて、暖かく描き出していく。そんな視線が、この映画の何よりもいいところだろう。天才少年の(天才ゆえの、そして12歳ゆえの)悩みなんかも、いかにもありがちで新鮮なところがある訳じゃないのだけど、たぶんそこがいい。
ただ、ありがちではありつつも、ひとつひとつのエピソードはちょっとずつひねられていて、そのひねり具合はなかなか絶妙だった。ブルーノ・ガンツ演じるおじいちゃんとヴィトス君のふれあいの感じなんか、定番だけどほほえましかったし、プロ仕様のフライトシミュレータの登場シーンとか、ベビーシッターの女の子がロックするところとかも、いちいちすっごいたのしくて。なんだか、ずっとにやにやしながら見てしまった。
そんなひねりの効いたエピソードの連なりのなかで、人間ドラマ(ホームドラマ風)もしっかりと描かれていたのもよかった。俺は主人公のお母さん――天才なこどもの母親であるがゆえの困惑や悩みを抱えている――にがっつり感情移入していたようにおもう。人物がていねいに描かれているおかげで、後半、ファンタジックかつベタベタな展開になっていっても、ちゃんとカタルシスを感じられるようになっていて。映画終盤の演奏会のシーンとか、なぜだかちょっと泣けてきて、びっくりした。
ブルーノ・ガンツが出てるから、ハズレってことはないよなー、くらいにおもって見に行ったのだけど、この映画はあまりにも自分のツボすぎた。ほんと、もう、こんなたのしい映画に出会えてしあわせ!あと、家族ものってジャンルにはひたすら弱い自分を再確認した。
あ、そうそう、舞台がスイスなので、登場人物たちの台詞は標準ドイツ語orスイスドイツ語。あと、お母さんはイギリス系らしく、怒ったときなんかは英語になったりして、そんな細かなところもおもしろかった。