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『世界の涯ての鼓動』

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去年、TOHOシネマズシャンテにて。生物数学者の女(アリシア・ヴィキャンデル)とMI-6の諜報員の男(ジェームズ・マカヴォイ)が、ノルマンディーの海辺にある小さなリゾートホテルで出会う。ふたりはそれぞれ、自らの信念を賭けた大きなミッションを数日後に控えていた。女の仕事は、潜水艇でグリーンランドの深海に潜り、地球の生命誕生の起源調査を行うこと。男の任務は、ソマリアのテロ組織に潜入し、爆弾テロを阻止すること。

男は職業柄、常に自らの死をどこかで予感しながら生きている。女は、深海という死の世界のなかから生の光を探そうとしている。それぞれが死と生のイメージを濃密にまとったふたりは、必然のように惹かれ合い、わずか数日間のうちで深く恋に落ちる。やがて休暇は終わるが、男が女に自らの素性を明かすことはない。ふたりはそれぞれの道を行くことになる…!

ふたりはそれぞれの仕事のなかで、「世界の涯て」としか言いようのない場所に辿り着き、そこで、自らの死を強烈に意識せずにはいられない、極限の状況に追い込まれることになる。「世界の涯て」とは、自らの信念や世界観が完膚なきまでに打ち砕かれ、自分の存在そのものが保てなくなるような場所だ。そんな場所で、彼らはそれぞれに相手のことを強く想い起こす。それは相手が自分と同じように強い信念を持った運命の半身のようにおもえたからかもしれないし、相手の存在こそが自分を「世界」に繋ぎ止める引力を持ち得るように感じられたからかもしれない。

本作の原題は”Submergence"。物理的には遠く離れているふたりが、暗く深い水底にまで潜っていったようなところで繋がっている、といった意味合いだろうか。本作では、ノルマンディー、ソマリア、グリーンランドとさまざまな海が登場するけれど、いずれも人知を超えたような、嘘みたいな美しさで映し出されており、そんな非現実的な繋がりがあってもふしぎではない、というような気分にさせられてしまう。