昨年末に、岩波ホールにて。ピッピやカッレくんを生み出した、スウェーデンの国民的な児童文学作家、アストリッド・リンドグレーンの伝記映画。原題は"Unga Astrid"(英題:"Becoming Astrid")なのだけれど、そのタイトルの通り、本作では、彼女が「リンドグレーン」になる以前の若かりし頃(10代〜20代前半)、「アストリッド」として自立するまでを描いている。
信心深い田舎の大家族で育ったアストリッドは、教会の教えや田舎のしきたりに違和感を覚えたり、その強烈な個性と10代のエナジーとを持て余したりしている。そんななか、彼女は職場のボスにして友達の父親でもある男に恋をして、妊娠してしまう。実家がなにしろ信心深いものだから、中絶などは決して許されないけれど、しかし、不倫が世間に露呈してしまっては、男が姦通罪で捕まってしまう。アストリッドはひとりデンマークに渡り、密かに出産、そのまま施設に子供を預けてスウェーデンに戻り、ひとり働き続けるのだが…!
アストリッドは、ピッピのようにハートが強く、自分の想いを遂げるためならば、どんな障害にでも断固として立ち向かっていく。もちろん、年齢的にも若過ぎる彼女のかんがえは、冒険心ばかりが先走っていたり、単に浅はかであることも多い。やっちまったな、というような間違いもたくさんする。けれど、彼女はどんなときでもそれに本気で向き合い、自分が乗り越えるべき問題として取り組んでいく。そして、とにかく最後までやり抜いてみせる。そんな姿はひたすらに格好よく、こういう人をこそ、本当に「強い」と言うことができるのだろう、とおもわされた。
というわけで、本作は、陰鬱で寒々しい、厳しい冬の土地を舞台に、ひとりの田舎娘が旧弊に打ち勝とうと粘り強く奮闘する、シンプルで力強い映画だった。彼女がどんな風に作家として目覚め、その才能を開花させていったのかについては、もうまったくと言っていいほど描かれていないわけだけれど、生んだばかりの子供と遠く引き離されてしまったその痛みの苛烈さこそが、子供向けの物語を作る強い原動力になっていたのだろうということは、十分に伝わってくる、そんな物語になっていた。