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『愛する人』

早稲田松竹にて。原題の"Mother And Child"の通り、母親とその子供(娘)の物語だ。物語の中心にあるのは、愛する人と別れること、そして、一度は別れてしまった愛する人のことを、なお求めずにはいられないこと、この2点だと言えるだろう。"愛する人"は母親であり娘であるので、出産や養子縁組にまつわる問題――養子に出した子供には、基本的にもう二度と会うことができない、とか――がトピックとして扱われているけれど、それらはあくまでも物語を駆動させるための装置であり題材であって、根底にあるのは、愛にまつわる別離と渇望の問題であるように俺は感じた。

作中では複数の母娘関係が描かれるのだけど、そのすべての関係が非常に痛ましい別離を経験することになる。このプロットひとつひとつは類型的で、どこかで聞いたことのあるような展開ばかりなのだけど、それは別の言い方をすれば、直球で王道ど真ん中を行く話だということでもある。そのせいか、女優たちの演技の輝きは本当に素晴らしく、観客は次第に彼女たちの姿に自らを照らし合わせ、物語にのめり込んで行ってしまうことになる。…というか、少なくとも俺自身はそうだった。物語中盤以降からは主人公たち(とくにアネット・ベニングとナオミ・ワッツ!)にずぶずぶに感情移入してしまって、もうしっかり泣かされてしまったのだった。

物語の構成の仕方、複数のストーリーの絡め方なども巧みで、全体的にていねいに作られた、説得力のある作品だと感じられた。男たちはすべからく端役でしかなく、女たちはどんな脇役にもしっかりとした個性が与えられている、って偏った描写の仕方(しかし、それが作品のリアリティをまったく損なっていない!)もおもしろかったな。どうにもぱっとしない邦題を除けば、ほとんど隙のない、非常にクオリティの高い映画だったとおもう。