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『ローマ人の物語 (1)・(2) ローマは一日にして成らず』/塩野七生

ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) (新潮文庫) ローマ人の物語 (2) ― ローマは一日にして成らず(下) (新潮文庫)

塩野七生による長大な歴史エッセイの第1巻(文庫では1,2巻)。紀元前753年とされるローマ建国神話から王政→共和制への移行、平民階級の台頭と貴族対平民の抗争、リキニウス法の制定による平民の包括、エピロスの王ピュロスとの戦いを経てローマが前270年頃にイタリア半島を統一するまで、という500年あまりが取り上げられている。また、当時のローマが参考にした法治都市国家の先進国ということで、前5世紀までのギリシア世界についても多くのページが割かれている。

もちろん史実をベースに書かれているのだけれど、「ローマ人の物語」というだけあって、全体的に塩野史観とでも言うか、塩野の意見をベースにしているところがとてもよい。彼女なりの史観で歴史上の出来事をストーリーとしてまとめてくれているから、とにかく頭に入って来やすいし、それなりに納得感を持って読み進められる。いまいち納得感がない箇所にしても、まあ塩野はこういう意見なんだな、とおもえる。ストーリーを通して意見を語る上では、自分の立場を明確化させる、ポジションを取るというのはやはり大事だなーと感じたのだった。

塩野は、2000年ほど前のギリシア人3人の著者たちの意見を参照しながら、ローマ興隆の要因を描いてみせる。すごく簡単にまとめてしまうと、以下のようなものだ。

  • 『古ローマ史』/ハリカルナッソスのディオニッソス
    ローマが強大になった要因は、宗教についてのローマ人の考え方にあった。多神教で狂信的な傾向がなく、他の宗教を認めることにまったく抵抗がないため、他民族の存立を認めることになった。結果、他民族と対立することが少なくなり、むしろ多民族を内包するような関係に進めやすかった。

  • 『歴史』/ポリビウス
    ローマの強さは、その独自の政治システムにあった。王政の利点を執政官制度で、貴族政の利点を元老院制度で、民主政の利点を市民集会で活用するという、ローマ共和制のシステムこそが繁栄の要因である。 紀元前367年のリキニウス法は、国政の要職すべてを平民出身者に開放したが、これよって、貴族と平民との対立関係を、貴族が平民を内包する関係に変えることができた。

  • 『列伝』/プルタルコス
    敗者でさえも自分たちと同化するローマ人の生き方こそがローマを発展させた。他の民族を被征服民として隷属化したり奴隷化したりせず、先住者と同等の権利を与えることで、「ローマ化」し、「共同経営者」にした。どこの生まれでも問題なく、ローマに住めば市民権を取得できる、という時期すらあった。

これらはいずれも、「古代では異例であったというしかないローマ人の開放的な性向を反映」したものだ、と塩野は述べている。

古代のローマ人が後世の人々に遺した真の遺産とは、広大な帝国でもなく、二千年経ってもまだ立っている遺跡でもなく、宗教が異なろうと人種や肌の色がちがおうと同化してしまった、彼らの開放性ではなかったか。
それなのにわれわれ現代人は、あれから二千年が経っていながら、宗教的には非寛容であり、統治能力よりも統治理念に拘泥し、多民族や他人種を排斥しつづるけるのもやめようとしない。「ローマは遥かなり」といわれるのも、時間的な問題だけではないのである。(下巻 p.209)

開放性こそが、彼らの繁栄の要因であり、また、われわれが学ぶべきものだというわけだ。