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『ペルシャ猫を誰も知らない』

吉祥寺バウスシアターにて。西洋文化が厳しく規制されるイランで、当局の目を逃れつつ、バンド活動に奮闘する青年たちを描いた作品。

音楽活動が制限されたイランの実情――バンドで演奏するだけで捕まってしまう!――は、彼らにとってたしかに息苦しく、生きづらいものとして映し出されている。のだけど、全編通して強く感じられるのは、"おもうように音楽ができない"という閉塞感よりもむしろ、"音楽をやりたい!音楽ってたのしい!"という喜びの感情の方だ。反イスラム的だろうが何だろうが、とにかく俺は音楽やるんだよ!って、向う見ずなエナジーが横溢している。そこが何よりいいとおもった。主人公たちが演奏する場所は、明かりすらない隠し部屋や地下深くに作った防音室、プレハブ小屋や牛小屋だったりもする。環境としてはとても満足できるものではないのだけど、でもそれで彼らの情熱が失われてしまうわけじゃない。籠の鳥だって、歌うことはできるわけだ。

なかでも好きだったのは、国外に出る前にイランで一回ライブをやりたい、っていう主人公たちの音楽を気に入って、あれやこれやと世話を焼く、マネージャー役の男。口から先に生まれたような、って言葉がぴったりくるような、画面に映し出される度にひたすらしゃべりまくるうるさいやつで、彼の強烈なキャラクターが物語のムードに大きく貢献していたとおもう。

とはいえ、そんな青いエナジーをいっぱいに抱えた彼らにも、やがてハードな現実が重くのしかかってくる。当局の厳しい取り締まりにやられてしまうのだ。イランの現状に問題提起しよう、って作品だから、ストーリーとしては当然といえば当然の流れなのだけど、「僕の夢は、アイスランドに行ってシガー・ロスを見ること」なんて、ほとんど無邪気な笑顔で語っていた主人公のことをおもうと、やっぱりそれは、なかなかに切ない結末だとおもわないではいられない。