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Hilary Hahn / Esa-Pekka Salonen: The Philharmonia Orchestra@東京芸術劇場

5月30日、池袋は東京芸術劇場にて、エサ=ペッカ・サロネン/フィルハーモニア管のコンサート。今度ウィーンフィルと来日することにもなっているサロネンは、最近かなり注目の指揮者だし、何より、俺にとっては高校生の頃からいちばん好きなバイオリニストである、ヒラリー・ハーンがソリスト!ってことで、かなり気合いを入れて会場に向かったわけだけど、さすがというかやはりというか、彼らは期待以上の演奏を聴かせてくれた。

● へリックス/サロネン
前プロは、サロネン作曲の『へリックス』。現代音楽にしてはかなりキャッチーで聴きやすい曲。…っていうか、そのくらいの印象しか残ってないや…。

● バイオリン協奏曲/チャイコフスキー
中プロが、ヒラリー・ハーンをソロに迎えた、チャイコフスキーのバイオリンコンチェルト。先日出たハーンの新作を聴いていたから予想はついていたものの、はっきり言って、こんなに冷静で精密なチャイコンは聴いたことがない!ってくらい、落ち着いてていねいに演奏されたチャイコンだった。もともと、サロネンもハーンも、音符がくっきりと見えてきそうな演奏をするタイプだとおもうけれど、これはなんていうか、世にはびこるパッション爆発系のチャイコンをクールに流し斬りするような演奏で、緊張感が凄まじい。凄まじいのだけど、当のハーンはじつに軽やかに弾いていて、とにかくかっこいいんだ。第一楽章頭のソロから、ぐんぐんに引き込まれてしまった。

ヒラリー・ハーンって、演奏技術の安定っぷりがすごいのはわかるけどさ、心は動かされないんだよね…みたいなことをときどき言われたりしている気がするけれど、いや、やっぱりこんな風に端正で精緻で、明確な意図でもって曲が推進していくのを感じさせる演奏には、感動しないわけにはいかないわー、と俺はおもった。まったく土の匂いのしないチャイコン、抑制のきいた優雅なチャイコン。こういうチャイコンもアリなんだなー、って目を開かされたみたいな感じだった。

ちなみに、アンコールはバッハのサラバンド。これはもう、会場にいた誰もがうっとりと聴き惚れていたに決まっているのであって、俺としても、最高だったとしか言いようがない。

● 交響曲第2番/シベリウス
メインはシベリウスの2番。全体の音の処理がとにかく精密だし、薄霧のような広がりを持った弦パートや、まろやかに溶け合った感じの金管の音色がすごくよくて、あー、本当にうまいオケなんだなあ、なんてあたりまえのことをおもった。正直言うと、シベ2ってとくに好きな曲ではないのだけれど、サロネンの指揮に引っ張られるようにして、かなりおもしろく聴けてしまった気がする。チャイコンでロシア臭が消されていたのと同様に、北欧っぽいロマンティックさは抑えめでありつつも、今度は音量の幅の大きさを最大限に活かしきった演奏で、ちょっと変わった響きになっていたようにおもう。でもとにかく、2楽章冒頭の緊張感にはじりじりさせられたし、4楽章の突入部やエンディングでは、身体じゅうが音に包まれて毛穴という毛穴が一気に開くような、ぞくぞくするくらいの快感を味わえた。

 *

ハーンがよかったのはもちろんだけど、サロネンの指揮は想像以上にわくわくさせられた。ブルックナーとかぜったい得意そうだし、秋のウィーンフィルとの共演、お金と時間さえあれば、聴きに行きたいなー。

・サロネン ヘリックス
・チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲


(ソリストアンコール)
・バッハ サラバンド(無伴奏ヴァイオリン・パルティータより)


・シベリウス 交響曲第2番


(アンコール)
・シベリウス 組曲「ペレアスとメリザンド」より「メリザンドの死」
・シベリウス 組曲「カレリア」より「行進曲調で」
・シベリウス 「悲しきワルツ」

チャイコフスキー&ヒグドン:ヴァイオリン協奏曲

チャイコフスキー&ヒグドン:ヴァイオリン協奏曲