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『ソウル・キッチン』

DVDで。ドイツ映画だ。ストーリー展開は大味だし、ここに力が入ってます、というようなポイントもあんまり見当たらないのだけれど、そういう力の抜けた感じ、全体的なゆるさがいい味わいになっている作品だった。

ハンブルクの街外れにあるソウル・キッチンは、ビールと温めた冷凍食品が主力のレストラン。オーナーのジノス(アダム・ボウスドウコス)にとって、自力で倉庫を改装して少しずつ作り上げてきたソウル・キッチンは自分の分身と言ってもいいようなもののはずだが、彼は店を特別愛している風でもない。まあ、ゆるゆるといつもの暮らしが続けられればそれでいいんじゃね、というくらいのスタンスなのだ。物語は、そんな彼に次々と災難が降りかかってくることで動き始める。恋人が急に上海転勤になったり、滞納していた税金の支払いを迫られたり、椎間板ヘルニアになってしまったり、衛生局に目をつけられたり、服役中の兄が仮出所して仕事をせびりにきたり、悪徳不動産屋に店を狙われたりするのだ。

結構大変なことが次々と起こっていくのだけれど、ジノスはへこんでもすぐに起き上がるというか、状況を結構あっさりと受け入れてしまう。まあしょうがないやね、っていう態度なのだが、これが見ていて気持ちいい。本作は、汗と涙のヒューマンドラマではなく、あくまでもシンプルなどたばたコメディなのだ。観客は、おーこれまた大変なことになってきたね、あっはっは、って見ていればそれでいいわけだ。

俺がとくに好きだったのは、ジノスの兄(モーリッツ・ブライプトロイ)のキャラクター。チャラくてギャンブル好きで泥棒でもある、まったくもってダメダメなのになぜか憎めない、ってタイプのおっさんだ。ジノス兄はソウル・キッチンで働くウェイトレスの女の子に一目惚れ、彼女が音楽好きだということを聞き出すや、舎弟を連れてクラブに向かい、DJセットをまるごとパクってきて、店にそのまま設置してしまう。使い方もよくわからないままセットをいろいろいじくっているうちに、気がつけば店はダンスフロア状態、大ブレイク。なんて、超強引な話を成立させてしまうキャラクターで、このふざけたおっさんを見ているだけでちょっと元気が出てくるような気さえしてくる。

感情を強烈に揺り動かすタイプの作品ではないけれど、まったり気楽に見ていられて、ちょっと幸せな気分になれる、たのしいコメディだった。こういう映画は、家で友達とビールかなんか飲みながら見たりするのにはちょうどいい。