作品概要・所感
ディラードが「本を書く」際の自身の心的状況を見つめ、その様相や移ろいを言語化してみせている一冊。日本語版タイトルはどこかノウハウ本的な雰囲気を感じさせるものだけれど、原題は”The Writing Life”。書くということは作家の人生においてどのようなものであり得るのか、作家はどのように書くべきなのか、といったことがエッセイの形式で語られている。切り詰められた文体が美しく、コンパクトだけれどぎゅっと内容の詰まった、濃密な一冊だ。
あなたは、あなた自身の驚きに、声を与えるために、存在する
執筆を行う場所の話や周囲の人々との交流のエピソードがぱらぱらと綴られていくなかで、どの話もごく自然に、書くということに関するディラードの考えや態度へと繋がっていく。各エピソードは、書くことに関するメタファーのように読むことができるのだが、単に自らの意見を補強するためにメタファーを利用しているわけではなくて、ディラードの人生においては、もはや書くこととは生きること、生きることとは書くこと、になっているのだ。
とくに気に入った文章を引用しておく。
人間の特別な性癖――ものごとに夢中になること――について書かれたものが、なぜないのだろう。他のだれからも理解されない自分だけが夢中になるものについて書かれたものが。その答えは、それこそまさに、あなたが書くテーマだからだ。なぜかはわからないが、あなたが興味をそそられるものがある。書物で読んだことがないので、説明するのがむずかしい、と、そこから始めるのだ。あなたはそのことに、あなた自身の驚きに、声を与えるために、存在するのだ。(p.110)
人はなぜ書くのか?ということに対する、じつに明快な回答であるような気がする。なぜか気になるが、説明するのが難しい、そんなものごとや感情を言葉にし、声を与えること、まさにそのためにあなたは存在するのだ、と。このわずか数センテンスのなかで、書くことと生きることとが、ごく自然に、信じられないくらいスムーズに、結びつけられている。
