Show Your Hand!!

本、映画、音楽の感想/レビューなど。

『この本を盗む者は』

作品概要・所感

NHK Eテレで放送されそうな雰囲気の、ヘルシーで王道なアニメ映画、という印象の一作。

書物の町、読長町に暮らす御倉深冬は高校1年生。巨大な書庫である御倉館を代々管理する一家の娘だが、厳しかった祖母の記憶もあり、本嫌いでいる。御倉館の存在は町でも有名で、商店街を歩けば、御倉の娘として声をかけられまくる毎日である。そんなある日、御倉館から何者かの手によって本が盗まれたことにより、「ブックカース」なる呪いが発動、町全体が物語の世界に飲み込まれてしまう。「呪いを解く鍵は物語のなかにある」と断言する不思議な少女、真白に導かれるようにして、深冬は町を救うべく、本泥棒を探す旅に出るのだが…!

「児童文学的」な、安心設計の物語

「本」(=小説)をモチーフにしたストーリーがテンポ良く展開していき、物語の拡がりを適度に感じさせつつも、内容自体は小学生中高学年くらいの子供でも無理なく理解できる範囲に収まっている。その塩梅がうまいなとおもった。先日記事を書いた『果てしなきスカーレット』が「YA文学的」な鋭さと粗さを持つ作品なら、本作は明らかに「児童文学的」でウェルメイド、尖った部分が削り取られたタイプの作品だということができるだろう。

主人公の深冬は、自分が何者であるかとか、この世界でどう生きるべきかといった葛藤にさらされることがほとんどない。物語はジェットコースターのように進行していくのだが、その土台となる感情や動機は終始シンプルで、観客が置いてきぼりになるようなこともないのだ。そういう意味では、深冬が中学生や、もしかしたら小学生であってもこの物語は成立し得たのかも?という感じもした。

全体のテンポが重視されていることと、85分というタイトな上映時間とが相まって、作品にはある種のダイジェスト感が漂っている。それは構成の面だけでなく、内容についても同様だ。深冬と真白は、マジックリアリズム、ハードボイルド、スチームパンクといった各ジャンルの典型的なムードが与えられた物語世界を巡り、本泥棒を追っていくのだが、そこで展開されるエピソードはいずれもどこか既視感のあるものばかりなのだ。これは尺の都合によるものとも、あるいは物語そのもののシンプルさゆえとも考えることはできそうだが、少なくとも、ステレオタイプな話を無闇に引き伸ばされても退屈なのは間違いないだろう。多少の駆け足感というリスクを承知の上で、深追いせずにテンポを優先するという選択は、本作においてはむしろ正解だったようにおもえた。

キャラクターの描写もまた、物語のスピードを損なわないよう最小限に留められている印象だったが、深冬と真白のガール・ミーツ・ガール的な関係性は、コンパクトながらも丁寧に扱われていたのが良かった。真白が深冬にやたらと懐いている理由を含め、その多くはいわゆる「お決まりのパターン」に則っている。しかし、ベタにはベタなりの良さがあるのだ。深冬の脱ぎ散らかした靴を真似して、真白がわざわざ自分の靴も脱ぎ散らかし直す場面などは、その最たるものだろう。ひたすらベタではあるが、だからこそちゃんと可愛いのだ。

 *

そういうわけで、本作は「児童文学的」な定番の物語を丁寧に形にした、正統派のアニメ映画だと言っていいだろう。安心して子供に見せられる作品、という言い方でもいいかもしれない。すでに書いてきたように、ストーリーやキャラクターに新鮮味はほとんどないのだが、アニメーションは美しく、スピード感もあるので、最後まで飽きずに楽しむことができる。

ただその分、ある程度の物語を摂取してきた大人の鑑賞体験としては、小綺麗にまとまったウェルメイドな作品、という印象に留まってしまう面もあるだろう。というか、少なくとも俺自身にはそう感じられた。原作ありきの作品ということで、それなりの制約があったのだろうけれど、このどこかそつのない雰囲気、優等生的な雰囲気を突き破るような、本作ならではの野心や挑戦みたいなものを、もう少し見てみたい気もしたのだった。

www.hayamonogurai.net