本書でもっとも重要なのは、企業がサブスクリプション・モデルを導入するということは、単に課金形態を月額に変更するということではなく、ビジネスモデルを変換することだ、という点だろう。
サブスクリプション・モデルを導入した企業は、顧客とかつてないほどダイレクトに繋がり、個々のウォンツやニーズを常に把握しつつ、永遠のβ版としてサービスを進化させ続ける必要がある。その際、サービスは当然その価値にふさわしい価格で提供されなければならないし、また、顧客の都合に応じて、いつでもサービス停止/再開できるようにしておくことが望ましい。加えて、顧客が一日でも長くサービスを利用し続けたくなるよう、サービスのアップグレード/ダウングレードについても随時提案していくべきだろう。そういった条件を満たし続けることで、企業は顧客と長期的な関係性を構築することができ、その結果として年間定期収入を確保できるようになる…というわけだ。
とにかく重要なのは、「すべての発想を、製品からではなく顧客から始めるということ」だとツォは繰り返す。サブスクリプション・モデルの最大の利点は、顧客とのあいだに1:1の関係を築き、顧客の求める要件とその行動とを理解することで、カスタマー・ジャーニーを適切に導くことができることにあるからだ。そのために企業は、営業、マーケティング、財務、ITといった観点で、たとえば以下のようなことを実施していく必要があるという。
- 伝統的な損益計算書ベースではなく、年間定期収益、チャーン、定期コスト、顧客獲得コスト、障害顧客価値等をベースに財務測定する。
- 顧客に対して、「弊社の製品ならあなたのお悩みを解決できます!」とアピールするのではなく、「弊社にはお客様と同じようなクライアントが大勢いらっしゃいます。お客様の業界で他の企業が行っていることから学んだベンチマークとインサイトについてお話させてください」と語る。
- 営業チームは、新規顧客獲得チームと既存顧客のフォローアップ専門チーム(カスタマーサクセス)に分ける。
- サービスの価格は、年間を通して常に検討し続け、ポイント・アンド・クリックで簡単に変更できる状態にしておく。
…いずれも、従来型のプロダクト販売のビジネスを行ってきた企業にとっては、それなりに高めのハードルがあることばかりだけれど、企業全体として、マインドセットを変換していく必要がある、ということだ。
また、これからの社会では、業界・業種に関わらず、あらゆる産業や経済活動がサブスクリプション化していくだろう、とツォは書いている。
あなたの会社が今後5年、見知らぬ人に製品を売る商売を続けるとしたら、10年後にも会社が存続している可能性は低いと言わなくてはならない。今日、あらゆる消費者ブランドに絶対に必要なのは、顧客を知るということだ。そうしなければ、あなたの会社は破綻する。(p.49)
顧客を知り、顧客からかんがえる。ツォは、「サブスクリプション・ビジネスは、顧客の幸せの上に成り立っている唯一のビジネスモデル」とも述べているが、それは、ロイヤリティを持つ顧客とのインサイトは他の企業には真似することができないからだという。商品やサービスは簡単にコピーされ、コモディティ化してしまう可能性があるけれど、関係性を模倣することはそう簡単ではなく、それこそが今後の企業の競争優位性を形作っていくことになるからだ。だからこそ、企業は顧客を満足させ続け、サービスを長期的に利用してもらうことで幸せになってもらわなくてはならない。そうでなければ、生き延びることはできない、ということだ。