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『スタンフォードの自分を変える教室』/ケリー・マクゴニガル

スタンフォードの自分を変える教室 スタンフォード シリーズ

スタンフォードの自分を変える教室 スタンフォード シリーズ

心理学、神経科学、医学などの分野から、自己コントロールにまつわる知見を解説し、自分の「意志力」を強化するためのさまざまな方法を紹介している一冊。紹介されているアイデアとしては、

  • 定期的な瞑想を行う(5〜15分)
  • 定期的な運動を行う(5分〜)
  • 呼吸を1分間4,5回に抑える
  • 屋外の自然に触れる(5分〜)
  • 睡眠時間を確保する(6時間未満はNG)
  • 誘惑に負けそうになったとき(例:ダイエット中のケーキ)は、「誘惑してくる対象そのものを思考すること」を禁止せず、欲求が存在することを受け入れてしまう。その上で、自分の目標をおもい出しつつ、行動を意識的に選択するようにする。

…などなど。すでにあちこちで散々引用されている本書なので、いま読んでみても真新しさはなかったけれど、ついついサボってしまいそうなとき、意志力を発揮できていないときに立ち返って確認するのには良い本だといえそうだ。

おもしろかったのは、「自分は変わるんだ」という誓いや決心――たとえば本書や、自己啓発本を読んだ直後におもいがちなこと――は、「変化をもたらす過程で最もラクで気分もいいもの」だ、という話。「変わる」ためには自制心を発揮して、やりたいことを我慢し、やりたくないことを行う必要がある。だが、誓ったり決心したりすることで、その人はまだ何も行っていないのにも関わらず、「変わるんだ」という期待感だけを先行して味わうことができてしまう。その結果、多くの人は、「自分を変える」ための努力を粘り強く続けるよりも、「かんたんに目標をあきらめてはまた決心する」(そしてまた期待感を味わおうとする)ことを繰り返してしまう…というわけだ。

気をつけなければならないのは、この期待感というのはまやかしの報酬、「いつわりの希望」であるということだ。当然のことだけれど、実際に行動を変えなければ、「変わる」ことなどできはしない。自分の気分を明るくする、気晴らしするためだけに、「変わるんだ」という期待をいたずらに抱くこと、いわば「決心するだけ」を楽しむことは避けなくてはならない、とマクゴニガルは注意喚起している。

さもないと、私たちは意志力をふりしぼっているつもりが、こんどこそ報酬が手に入ると信じてレバーを押し続けるラットのごとき存在になってしまうでしょう。

俺は何かと計画を立てることが好きなタイプなのだけれど、いったい何がたのしくて計画を立てているのか、という自分の心理をすっかり見透かされたような気がしたのだった。計画を立てた端から計画倒れして、また次の計画を立てる…なんてことを繰り返してしまっているようなときは、まさにこの「いつわりの希望」というインスタントな快楽を求めてしまっているラット並の状態になっている、ということなのだろう。