- 作者: ピーター・ティール,ブレイク・マスターズ,瀧本哲史,関美和
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2014/09/25
- メディア: 単行本
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世の多数派の意見を覆すようなラディカルな思考、とはすなわち、イノベーションを起こすような思考のことだと言っていいだろう。多くの人が本当だとかんがえているがじつは間違りであること、多くの人が信じてはいないがじつは真実であること、のなかにこそイノベーションの芽は眠っているからだ。
そんなティールは、ドットコム・バブルの教訓から学びを得たシリコンバレーの起業家たちがかんがえているような、「スタートアップ界の戒律」、すなわち、
1 少しずつ段階的に前進すること
2 無駄なく柔軟であること
3 ライバルのものを改良すること
4 販売でなくプロダクトに集中すること
(p.40−41)
というのは、いずれも「過去の失敗への間違った反省から生まれた認識」による誤りだと語る。彼によれば、むしろこれらの逆こそが正しい原則であり得る。
1 小さな違いを追いかけるより大胆に賭けた方がいい
2 出来の悪い計画でも、ないよりはいい
3 競争の激しい市場では収益が消失する
4 販売はプロダクトと同じくらい大切だ
(p.41)
まあこれも、冒頭の質問の回答のひとつというわけだ。本書では、こういった「隠れた真実」について触れながら、従来のかんがえを疑い、ゼロから新しい何かを創造する企業を立ち上げるための指針が書かれている。
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「隠れた真実」のなかでもとりわけティールが強調しているのは、独占の重要性だ。曰く、「独占企業は金儲け以外のこと(倫理規範の制定や野心的な研究開発など)を考える余裕がある。完全競争下の企業は目先の利益を追うのに精一杯で、長期的な未来に備える余裕はない」、「進歩の歴史は、より良い独占企業が既存企業に取って代わってきた歴史である」とのこと。たしかに、独占企業がその他の企業に比べて圧倒的に有利な立場であるということは、誰にでも理解できる。ではなぜ、われわれは競争を健全なものだとかんがえてしまうのか?
ティールの答えは簡潔だ。それは、「競争はイデオロギーだから」ということだ。
社会に浸透し、僕たちの思考を歪めているのが、まさにこのイデオロギーだ。僕たちは競争を説き、その必要性を正当化し、その教義を実践する。その結果、自分自身が競争の中に捕らわれてしまう――競争すればするほど得られるものは減っていくのに。(p.58−59)
デイル・ドーテンが『仕事は楽しいかね?』で、「平均よりちょっと上を目指していても、行き着くところはやはり平均でしかない」というようなことを書いていたけれど、それとよく似ている。イデオロギーに絡め取られて他社と競争しているあいだは、突出することなどできはしない、目線やフィールドを変えることで独占を狙わなければ、マジックは起こせない、ということだ。
競争は資本主義の対極にある。もしこのことをまだ知らないのなら、いくらでも実証的に調べることができる――企業収益を定量分析すれば、競争によって収益が失われることがわかるはずだ。同時に、人間的な側面から問うこともできる。経営者が口にできないことはなんだろう?独占企業は注目を避けるために独占状態をなるべく隠し、競争企業はわざと自社の独自性を強調していることに気づくはずだ。表面的には企業間にあまり違いがないように見えても、実際には大きな違いがある。(p.143)