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『北斎 富嶽三十六景』/日野原健司 編

富嶽三十六景は、江戸時代後期の浮世絵師、葛飾北斎による、錦絵の揃物。江戸、東海道、信州、尾張など、さまざまな場所から見られる富士山の姿を描いた作品だ。三十六景と言いつつも、実際には46点が制作されている(もともと36点だったが、売れ行きが好調だったため、後に10点追加制作されたということらしい)。天保元年〜5年(1830〜1834年)頃にかけて制作されたと言われているが、その頃の北斎の年齢は70歳過ぎだったということになる。

本書は、三十六景の作品を一点ずつ見開きカラーで掲載し、それぞれの作品の特徴や用いられている技法、描かれているモチーフや場所、季節などについてコンパクトな解説を加えたもの。文庫サイズとはいえ、絵の美しさはきちんと味わえるし、解説も2ページに収まっているので、気楽に読んで三十六景の概要を知ることができるようになっているのがよい。

三十六景の特徴は、本書によれば、以下のようなところということになるだろう。

  • 富士山から与えられたインスピレーションを活用して、自由な発想で制作している。写実性よりも、構図の美しさや面白さ、インパクトを重視している。
  • そのため、事物のサイズ感や配置などを自在にアレンジして、実際にはありえないがいかにもそれらしい風景が描かれている。
  • 結果として、幾何学的な画面構成が多い。相似形や、似たような形を画面上に複数入れ込むことで、リズム感を演出したり、遠近感を強調したりしている。
  • 富士山の描かれているサイズは絵によってまちまちだが、必ず富士山の存在が核になっている。
  • いわゆる「富士見坂」的な、富士山が見えることで有名な土地ばかりでなく、比較的マイナーな土地も取り上げられている。

いずれの作品も、構図やタッチが美しいのはもちろんのこと、人の配置や動きなど、どこかユーモラスで遊び心がある感じがよい。ぱらぱらとめくっているだけでも、なんとも幸せな気分になれる。