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『シェイム』

早稲田松竹にて。地味ながらも、クールな作風の、いい映画だった!ニューヨークの高級アパートに住む、いわゆる"成功したビジネスマン"である主人公(マイケル・ファスビンダー)は、セックス依存症。まいにちまいにち、ゆきずりのセックスやらポルノサイトのチェックやらで下半身を酷使しているのだけれど、どうにも満たされること、気持ちが安定するということがない。ある日、そんな彼のもとに、クラブ・シンガーの妹、シシー(キャリー・マリガン)が押しかけてくるのだが…!

主人公がセックス依存症、という設定なので、画面には性行為にまつわるシーンが繰り返し映し出されるわけだけど、そこにはほとんどセクシャルな匂いがない。それは、画面に映し出される映像がストイックなまでにシックで無機質な色調で統一されていることや、決して陶酔的にならないよう、注意深く鳴らされる音楽の使われ方からもわかるように、本作が比較的"スタイリッシュ"であることに重きをおいていることと無関係ではないだろうけれど、それよりなにより、主人公の性行為がすべからく自罰的なもののように見えるからだろう。主人公は、とにかく暇さえあれば、という感じに――観客としても若干うんざりするくらい執拗に――性行為を繰り返す。その姿は、あたかもなにかに追われているかのよう、なにかから必死に逃れようとしているかのように見える。もちろん、そこには純粋なよろこびや愛情などといったものが介在するような余地はない。

見える、と書いたけれど、それは文字通り、主人公の表情がそのように見える、ということだ。本作において、主人公が自分の内面を直接的に吐露したりするような場面はほとんどない。その代わりに顔のアップが非常に多くなっていて、その、憂いを含んだ、ちょっと困惑したような、それでいてすべてを心の奥底に押し隠そうとするような表情を、観客は何分も見つめ続けることになる。観客は、あるときには主人公のことを少し理解できるような気もするし、あるときにはこの人なにかんがえてるの…と置いてきぼりにされたような気分にもなる。主人公が周囲にひた隠しにしているなにかは、観客にも最後まで知らされることはないのだ。

主人公の妹であるシシーについても、彼と同様に自罰的な傾向がある。彼女の手首にはいくつもの切り傷があるし、その言動はいつも不安定で、感情の落差も激しい。なんらかの助けを求めて兄のもとへやって来たことは明らかだけれど、それ以上のことはわからないし、彼ら兄妹が抱えているのであろう傷の具体的な内容についても、やはり作中で直接的に語られることはない。

この、「語らないままでおく」ということこそが、本作を"スタイリッシュ"でありつつも、深みを持った作品たらしめているポイントだと言えるだろう。物語のまさに核心の部分を空白のままにしておくことで、主人公たちの抱える問題――それは、"Shame"という題名の通り、恥ずかしいなにか、不名誉ななにか、背中にいやな汗をかかせるなにか、そのくせ抑制することの困難ななにかである――については観客の自由な解釈が許されるようになり、結果、このきわめて特殊であるはずの物語が、普遍性へと開かれることになるのだ。

『シェイム』は、自分自身では扱い切れない問題を抱えた者同士が、それでもなお繋がりを求めて必死にあがく姿を誠実に描いた作品だといえるだろう。見ていて元気の出るようなタイプの映画ではないだろうけれど、いろいろなことを考えさせられる、いい作品だった。