- 発売日: 2013/11/26
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ストーリーについては、語れることはそう多くない。独ソ両軍のポーランド侵攻、カティンの森での虐殺、残された家族たちの物語が複数の視点から描かれていく構成になっているのだけど、ケレン味や大胆な伏線があるわけでもないし、一貫して地味で陰鬱な印象がある。とはいえ、物語の牽引力はかなりしっかりとしているから、退屈するようなことはない。なんていうか、延々と描かれる暗くどんよりとした空気のなかには、常に一本張りつめたものがあるようで、それによって観客は物語世界にぐんぐんと引き込まれていってしまうのだ。その引力の強さは、ほとんど暴力的だと言ってもいい。
張りつめているもの、有無を言わさず、観客を強引に引き込んでいく力とはいったい何なのか。じっさいに父親をカティンの森事件で亡くしているという、アンジェイ・ワイダ監督の怒り、悲しみ、事件そのもののおぞましさ、人間というやつの内奥に潜む闇…そんなキーワードのどれもがそれなりの説得力を持っているように感じられるけれど、いや、そんなんじゃないのかもしれないな、ともおもう。うまく言えないのだけど、この映画のテンションを生み出しているのは、ワイダ監督が生涯かけて追ってきたというカティアの森事件やポーランドの辿ってきた歴史を、まるごと映画という形態に落とし込もうという、その異様なまでの熱情なんじゃないだろうか、という気がする。
胃のあたりが重くなるほどにへヴィな心象や、ペンデレツキのクールで陰鬱な音楽も凄かったけれど、なにより映像、演出の切れ味が印象的な映画だった。ポーランドの紅白の国旗を真っ二つに切り裂いて、赤軍の旗として掲げるシーン、地面に落ちた将校の上着を奥さんが見つけ、恐る恐るめくり上げるシーン、一瞬だけ映し出される壊された墓石の映像、そしてもちろん、カティアの森での虐殺のシーン。どれも淡々としているようで、ぜんぜん淡々となんてしていない。ほとばしる熱情が作品全体を通して常に渦巻いている、そんな圧倒的な作品だった。