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『LOVE』/古川日出男

LOVE
三島由紀夫賞受賞作。現代の東京を舞台とした、短編っぽい雰囲気を持った4つの物語と4つの間奏からなる小説だ。時間のあるポイントに的をしぼり、そこでの人々の刹那的な邂逅を描いた群像劇。

手法的には、作中の人物が2人称の語り手として登場することだったり、登場人物を大量に出していくことで小説全体にゆるさを醸し出していることだったり、舞台である東京は目黒川周辺の地名が「午前七時、きみは目黒区三田一丁目と渋谷区恵比寿三丁目と品川区上大崎二丁目が交叉する地点にいて、しかも港区白金台五丁目か白金六丁目に抜けようとしていた。(p.199)」ってな具合にやたらとくわしく書き込んであったり…、と、まあ、いろいろとおもしろいところはあるんだけど、全体を貫いている、“五感を鋭くキープしておくことで、世界の別な側面が認識できる”ってモチーフが何より素敵だとおもった。

あと、それぞれのストーリーがわりとあっさり途切れているところもいい。オープン・エンディングみたいになっていて、開放感がある。物語が断片的であるからこそ、一瞬だけ放たれる光が眩しく見える、っていうような感じで、その輝きからは世界のたしかな手触りが導き出されていくよう。

いちばんすきだったのは、「ブルー/ブルース」の章。ここに出てくる小学生たちがねー、なかなかかっこよくて。疾走感のある、そして肉体を感じさせる古川日出男の文体にしっくりとくるキャラクターたちだとおもった。や、っていうかそれはきっと順序が逆で、登場人物や物語にふさわしい、その物語のためのことば、を求めていってこの文体に辿りついた、ってほうが正確なのだろうけど。

あたしクイズ出したい、と少女は言った。どうして?とジャキは訊いた。どうしてだろ、わかんないけどさ、クイズ出されたら絶対に答えを知りたいでしょう?ジャキは、そうだね、と言った。じゃあ題材決めよう、と少女は言った。ついさっきさ、あたしと会うまで、なんのこと考えてた?
鯨、とジャキは即答した。
それだ、と少女は言った、鯨がこの品川に初めて来たの、いつのことだか知ってる?
え?
それがクイズ。
品川に、来たの?
頑張って正解してね。そして、また会ったら、ちゃんと答えてね。それで、また会ってね。
待って、ヒントがほしいよ。
ヒントはね、あたしが天王洲のオンナだってこと。あ、ほら、シナキュウナナが来ちゃった。あたし、広尾も青山霊園も、信濃町も四谷も通過して、終点の新宿駅西口に降り立つわ。そこにはハヤナナナナもオウナナハチもジュウキュウイチも、いっぱい、あるのよ。
うん、とジャキは言う。わからないけど、わかった。(p.118)