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『くっすん大黒』/町田康

くっすん大黒 (文春文庫)
俺は、メディアに露出多くしている作家、というのをあまり信用しておらず、だからパンク歌手などといった肩書きのついた作家である町田康なんて、どうせパンクと言いつつもその実サブカル好きに媚を売った腑抜け野郎に違いないのであって、自分には関係ないね、っておもっていたのだったけれど、どうも周囲から、町田康はいいよ、町田はおもしろい、町田の新刊はどうよ、えっ町田康読んだことないわけ、といった声が多く耳に入ってくるものだから、よし、ここはひとつ、ってデビュー作であることろの「くっすん大黒」を購入、近所のモスバーガーで読み始めたところ、開始数ページでもう完全に引き込まれてしまい、まったく、いままでこんなおもしろい小説をスルーしてきたなんて、なんて愚かだったのだろう自分は、って少しく後悔することとなったのだった。やっぱり食わず嫌いはよろしくないね。

まあ何がおもしろいって、とにかく文章がおもしろい。小説に導入されているのは“語り”から生まれるグルーヴ感、ダイナミズムであって、それが読む快楽にまっすぐに結びついている。小説内ではまあ事件っぽいことが起こったりもするわけなんだけど、内容のおもしろさより語りのおもしろさの方が勝っているというか、なんていうかこう、どうでもいいことを書いているところの方がおもしろい。

俺的ベストキャラは、吉田のおばはんって人で、モスバーガーでむぷぷと声に出して笑いそうになるのを必死で押し殺しながら読んだその箇所を引用しようとおもったんだけど、ちょっとだけ引用してみても、どうもあんまりおもしろくない。いや、おもしろくない訳ではないんだけど、抜き書きした文のおもしろさは、読んでいたときに感じていたおもしろさとはもう質の違うものになってしまっている、っていうか。やっぱり、小説の流れに身を任せ、語りのグルーヴにやられながら読む、ってのがあたりまえだけど肝要なわけだなー、とおもった。

あーもう、もっと早くに読んでおくべきだった。高校生、せめて10代のうちに。そうしたらきっともっとファンキーな人間になれていたんじゃないか、って気さえする。まじで何でもばかにしないで貪欲に吸収してかなきゃだめだわ、と身に沁みて感じたのだった。