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砂丘は巨大なホリゾント

9.6
6時頃ネカフェを出て、半過ぎのとっとりライナー(快速)に乗り込む。押しボタン式のドア。これから朝練、って中学生とかがいるくらいで、車内は空いている。ようやく身体が旅モードに入ってきた感じなのに、もう半分は終わっちゃったんだ…、とかおもうと少しさびしい。18きっぷには3つ目のスタンプが押されてしまった。車窓から見える空はうっすらと曇り。でも暑くなりそうな気配は十分すぎるくらいにある。

移動中はひたすら眠り、米子に着いてバスを待つ間もひたすら眠る。こうして無理やり体力を回復させて進んでいく感覚も、旅モードのひとつ。9時半前、観光用のループバスに乗って、植田正治写真美術館へ向かう。バスの乗客は4人だけ。

美術館の周辺は、なんとも静謐なところだった。いや、静謐っていうか、もう、まじで周りに何もない。空が圧倒的に広くて、音も虫の鳴き声くらいしかないんだけど、そこにコンクリート打ちっぱなしの、妙に確固としたテンションを持った建物がある。そしてその真正面にはきれいな稜線を描く大山。ふしぎな、でも落ち着きのある美しい場所だった。

500円払って館内へ。あたりまえのことだけど、いままで本とかで見ていた写真とは全く別物、って感じられる。本とかでは、へえー、おもしろい構図じゃん、なんて冷静に見ていたはずが、いざ本物を目の前にすると、なんていうか、もっとぐっと引き寄せられてしまう。あと、細部にいちいち注目してしまう。これが一回性のオーラか!っておもいつつ、目に焼きつける勢いで凝視しまくった。展示されている作品の数はそう多くないけれど、実際長時間は居られなかったので(バスの本数がとにかく少ない!)、ま、ちょうどよかったのかな、って気もする。とくにすきだったのは、「少女立像」、「ボクのわたしのお母さん」、「群童」あたり。

昼、米子に戻る。てきとうに昼メシを食べて、電車を待つ。特急には乗れないから、2時間近く待たなくてはならない。喫茶店で一服し、iPodでジミー・スコットのアルバム、『all the way』を気合いを入れて聴いた。聴くのに結構なエネルギーを使う音楽、否応なしに没入してしまう音楽、っていうのはよくあるけど、ジミー・スコットの歌もそうで、彼の歌を聴いていると、そこがたとえ米子のジャスコのなかでも、遠い夜空を、星空を見上げているような、しんとした気持ちにさせられる。聴きながら、美術館で見たいくつかの写真と、きのうの砂丘の風景をおもい出していた。

米子→鳥取と戻り、きのうからロッカーに預けっぱだった荷物を回収して、また智頭へ。って、因美線に乗ったところ、ふいに後ろから声をかけられた。ん?振り返ると、なぜか大学オケの友人たちが5人。うわっ、まじで!てか、なんでこんなところに!?なんて一通り驚き合ったあとで聞いてみると、なんでも、“リアル桃鉄”をやっているところだとか。リアル桃鉄…。

サイコロのマスが出た駅では降りないといけない、ってルールだそうで、全体に本数が少ない山陰の路線ではいろいろと大変みたいだった。あと、ごはんとか宿とかもカードを引いて決めるらしく、無人駅で一晩を過ごしたり、きのうから水しか飲んでない…、みたいなやつもいたり。へえー、たのしそう!って、ちょっと惹かれたけど、観光地に行かない旅自体は中高の間にずいぶんやってしまったので、そういうのはもういいかな、とおもわないでもない。まあ、とにかく彼らのうち2人は智頭で、3人は美作加茂あたりで降りていった。武運を祈りつつ、俺は列車を乗り継いで姫路まで戻る。明日の昼には岐阜に着いていないといけないのだ。