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『ナンバー9ドリーム』/デイヴィッド・ミッチェル

ナンバー9ドリーム (新潮クレスト・ブックス)
500ページ以上ある大作だけど、ページ数以上にボリューム感のある小説だった!物語の舞台は日本で、まだ見ぬ父親を探しに、屋久島から東京にやって来た少年が主人公。“父親探し”がストーリーの軸になってはいるのだけど、夢だか現実だかよくわからないような、幻想めいた感じが全編にただよっている。作中作や夢、妄想がごちゃごちゃと入り混じっていたりして、その混沌としたイメージの奔流に飲まれるのがたのしい(のだけど、情報量が多いので、読むのにはわりとスタミナがいる)。

各章ごとにいろいろと文体が変わったり、構成なんかも工夫されていたりするし、長編小説らしい要素がぎうぎうに詰まりまくっている。実験的で、安易な理解を拒むような性質だとか、読みにくさ自体がその魅力と切り離せないタイプの小説ってあるけど、これは基本的には少年の成長譚であるから、そのディケンズ的なシンプルな骨組みに乗っかるようにして、ぐんぐんと読み進んでいける。物語に関しては、文句なしにおもしろい。

著者のデイヴィッド・ミッチェルは、日本に住んでいたこともあるイギリス人。ミッチェルの描き出す東京はやたらと洗練されたサイバーな都市で、東京の無国籍感、欲望の赴くままになんでもあり(だけど基本的にクール)な感じが前面に押し出されている。たとえば会話なんかもいちいち切れ味が鋭くて、

「こんにちは。案内板を見てきたんですが。遺失物保管所ですよね?」
「はい」と俺。「なにか失くしましたか?」
「お母さん」と女の子。「いつも、許可なく勝手に放浪しちゃうんです」(p.111)

「昔はね」/「人間が東京を作ったの。でも、それもどこかで変わってね、いまでは東京が人間を作るのよ」(p.428,429)

ちょっと鼻につくところもないではないけど、そういうところも含めてサイバー感が出ていてたのしい。

ミッチェルは村上春樹がすきらしくて、オマージュっぽい要素もちょくちょくあるみたいだった。あと、タイトルからもわかる通り、ジョン・レノンの曲は作中に何度も出てくる。主人公がギターでレノンの曲を練習してたりとか。