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鮪のこと

何度かここに書いているH(中1・♂)の他に、俺はいまもうひとりの子のかてきょもやっている。この春から小6になった彼のことを、ここでは鮪と呼ぼうとおもう。なぜ鮪なのか?きわめてシンプルなその答えは、彼のすきなものが鮪だからだ、という一点に尽きる。

彼のフェイバリットがまぐろだということは、彼と直接会う前から知らされていた。かてきょを受け持つときに、派遣会社の方から生徒のデータとか自己紹介シートみたいなのを見せてもらったりするわけなんだけど(あなたの血液型は何ですか?/きらいな科目はありますか?/どんな先生がいい先生だと思いますか?…)、その「すきなもの」についての欄に、彼は、“まぐろ”と書いていたのだ。え、すきなものまぐろって?食べるのがすきってこと??たいていの子は、やっぱり“野球”とか“DS”とか、“マンガを読むこと”とか書いてあったりするわけで、まぐろっていうのは俺は初めて見た。ここにたべものを書いてくるなんて。なかなか斬新だし、意表を突く回答だ。

鮪がたべもののまぐろをどのくらいすきなのか、ってことはすぐに明らかになった。鮪のかてきょをやるようになってたぶん3、4回目だったかな、昼ごはんを食べ損ねていた俺はもうおなかが空いてどうしようもなかったので、鮪に問題を解かせながらコンビニのおにぎりを食べようとしていた。のだけど、おにぎりの袋をぴいって開けて、ビニールを外して海苔を三角に巻きつけ、食べる、その一連の動作のなかで、なんだか妙に熱のこもった視線が手元のあたりに感じられて。あ、ちょ、ごめんごめんすぐ食べおわるよー、なんて言おうとした瞬間、はっと気がついた。俺の右手のなかにあるのは、ねぎとろのおにぎりだったのだ。

や、いくらまぐろだからってそんなに見つめなくてもさ…、とはおもったけど、後に鮪の力説したところによれば、ねぎとろのおにぎりは(近所の)セブンでは売ってなくて、(近所にはない)ファミマだけでしか手に入らないものなのだそうだ。どうやら、俺が無造作に食べていたのが、鮪にとっては神聖な憧れのねぎとろだった、ということらしいのだった。