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『パンズ・ラビリンス』

恵比寿ガーデンシネマにて。行ったのが日曜の夜ってこともあり、かなり混んでました。CMなんかを見て、最近よくある感じのファンタジー映画を期待して見に行ったひとは、あまりのおどろおどろしさにショックをうけたんじゃないだろうか。物語はファンタジーと現実がまぜこぜになって展開していくのだけど、全体的に描写が過剰なまでに変態的で、残虐さにもまったく容赦がない。ファンタジーの世界のカエルやら虫やらクリーチャーやらは、実にぶきみできもちわるいし、かといって現実世界のほうはもっとハードで、弾丸の音からしてすさまじく暴力的だし、拷問のシークエンスなんて、もう、ちょっと見てられないくらいひどい(痛い)。そんなきわきわの描写のなかで、現実とファンタジーのイメージがさまざまなかたちで対をなしたり、交錯していったりする。

物語の流れは、まあだいたいこんなところかな、と見るまえから想像していたようなあたりにおさまっていくのだけど、そこまでの展開がとにかくへヴィで、ちょっと暗澹としたきもちにもなった。なにしろ救いがない。いかんともしがたい、ってやつなのね。けれど、この物語は、最終的にはファンタジーのちからへの信頼を見せており、そこが微かな光になっている。

現実というものを語るときの方法のひとつとしてファンタジーというものはあって、ファンタジーという方法をとることで、どうしようもない現実のなかから希望を、救いを見出そうとする。この映画のラストシーンを見たとき、なんともいえないきもちになったのだけど、それは物語の救済のちからなんてものが、現実のまえではあまりに無力に見えるからかもしれない。けれど、この映画は、物語というものの持つちからの限界を知りつつも、そこに誠実に向きあっている感じがする。生を肯定するための、ファンタジーという方法。そこがすごくいいとおもった。

けど、いまこうしておもいかえしてみるに、この監督、ぜったい変態だろ!とつよく感じるね俺は。いや、ほめことばだけど。主人公の女の子を写す際にはいつも性的なニュアンスを匂わせることを忘れないし(カエルのシークエンスは、うわーなんとも…、っておもった)、すべからくファンタジーとは残酷さをともなうものであるとはいえ、やっぱり暴力的なシーンがきつすぎる。なんだかなー。物語としては、ファンタジーによって悲惨な現実の救済を図る、やさしい話であるのに、描写のひとつひとつはどうにも変態ちっく、というところがね、おもしろい。どこかで、スティーヴン・キングが激賞!なんて記事を読んだ気がするけど、たしかにこの真摯さと変態さの振れのおおきさの感じなんか、キングと近しいものがあるかもしれないなー、とおもった。