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本、映画、音楽の感想/レビューなど。

本-文学-ヨーロッパ文学

『ハムレット』/ウィリアム・シェイクスピア

本作の何よりの魅力は、やはりハムレットというキャラクターの「底の知れなさ」にあるだろう。テキストからは、ハムレットの心情の奥底の部分、ハムレットを突き動かす本当の動機、ハムレットに取り憑いた狂気の真正さ、などといったものを明確に推し量るこ…

『モモ』/ミヒャエル・エンデ

モモ (岩波少年文庫(127))作者: ミヒャエル・エンデ,大島かおり出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2005/06/16メディア: 新書購入: 41人 クリック: 434回この商品を含むブログ (299件) を見る 十数年ぶりに再読。全体的にバランスの取れた、かなりクオリティ…

『ヴェニスの商人』/ウィリアム・シェイクスピア

どうも最近だと、「シャイロックという人物の深みが…」とか、「シャイロックという人物の悲劇性が…」とか、「シャイロックという人物はユダヤ人のステレオタイプなどといったものではなく…」といったような、シャイロックの被抑圧っぷりに注目したシリアスめ…

『ジェイン・エア』/シャーロット・ブロンテ

主人公、ジェインの魅力は、何といってもその意志力の強さだろう。文字通り自分の意志の力ひとつで人生と格闘し、運命を切り開いていくその姿は、とにかくかっこいいとしか言いようがない。ジェインの意志力は、物語冒頭では不幸な生い立ちからの脱却への志…

『海に住む少女』/ジュール・シュペルヴィエル

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)作者: シュペルヴィエル,永田千奈出版社/メーカー: 光文社発売日: 2006/10/12メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 38回この商品を含むブログ (82件) を見る これはひさびさの大当たりだった!シュペルヴィエル、こんなにも…

『星の王子さま』/アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(その2)

「王子さま」と「僕」との対話は、ほとんどが一方的な「王子さま」の独白のようでもあるけれど、たぶんそうではない。「王子さま」は、やはり、彼の話をきちんと聞いて、受け止めてくれる「大人」というものを必要としていたのではないか。自分の心の内をさ…

『「星の王子さま」物語』/稲垣直樹

「星の王子さま」物語 (平凡社新書)作者:稲垣直樹平凡社Amazon 前回と前々回のエントリで取り上げた『星の王子さま』解説本はどちらも物足りなかったので、図書館からさらに5,6冊、同系統の本を借りて来て、ひと通り読んでみた(今年のGWは、ほとんどこれで…

『星の王子さまとサン=テグジュペリ 空と人を愛した作家のすべて』

星の王子さまとサン=テグジュペリ ---空と人を愛した作家のすべて河出書房新社Amazon ムックというか、編集本というか、まあそういった感じの一冊。「『星の王子さま』をめぐって」、「サン=テグジュペリ、その人となり」、「サン=テグジュペリの仕事」、…

『星の王子さまの世界 読み方くらべへの招待』/塚崎幹夫

なにしろ、『星の王子さま』という作品が感動的なのは、「王子さま」の最後の決断が、まさにこれしかない、と感じさせるような決断であるからなのだ。塚崎の意見からすれば、『星の王子さま』に書かれているのは、逃避や免罪符やノスタルジアの生暖かい感覚…

『星の王子さま』/アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(その1)

星の王子さま (新潮文庫)作者: サン=テグジュペリ,Antoine de Saint‐Exup´ery,河野万里子出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2006/03/28メディア: 文庫購入: 24人 クリック: 119回この商品を含むブログ (184件) を見る およそ10年ぶりに再読。世界的大ベストセ…

『トムは真夜中の庭で』/アン・フィリッパ・ピアス

トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 (041))作者: フィリパ・ピアス,スーザン・アインツィヒ,Philippa Pearce,高杉一郎出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2000/06/16メディア: 単行本購入: 6人 クリック: 54回この商品を含むブログ (100件) を見る これは素晴…

「駅長ファルメライアー」 /ヨーゼフ・ロート

「おそらく、ファルメライアーは帰還したヴァレフスカ伯爵をひと目見るや、己の敗北を決定的に悟ってしまったのだろう…」だとか、「ファルメライアーの諦めは、自分は戦争という特殊な状況下だったからこそ、伯爵夫人と結ばれることができたのだと強く自覚し…

『純愛(ウジェニー・グランデ)』/オノレ・ド・バルザック

これもドストエフスキー関連で読んだ一冊。1844年、作家としてデビューする前のドストエフスキーが翻訳した、バルザックの有名作だ。もともとのタイトルは、"Eugénie Grandet"。「人間喜劇」的には、「地方生活情景」に属する作品だ。 フランスの田舎はソー…

『黄色い雨』/フリオ・リャマサーレス

黄色い雨作者: フリオリャマサーレス,Julio Llamazares,木村榮一出版社/メーカー: ソニーマガジンズ発売日: 2005/09メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 16回この商品を含むブログ (38件) を見る まったくもう、これも素晴らしかった!泣きたくなる…という…

『狼たちの月』/フリオ・リャマサーレス

スペインの作家/詩人、フリオ・リャマサーレスの初の長編小説。いやー、これはもう、びっくりするほど素晴らしかった!物語の語り手はスペイン内戦の敗残兵(故郷の山奥に逃げ込んでいるが、フランコ派の軍隊の監視があるために、何年経ってもそこから下りて…

『うたかたの日々』/ボリス・ヴィアン

ヴィアンの何よりの魅力は、シャンパンの泡のように軽やかでさわやか、きらきらと透明に輝くその文体だろう。重さや寓意性などといったまどろっこしいものはことごとく退けられ、ひたすらエレガントであること、ナンセンスであることだけに意識が向けられて…

『レ・コスミコミケ』/イタロ・カルヴィーノ

レ・コスミコミケ (ハヤカワepi文庫)作者: イタロ・カルヴィーノ,米川良夫出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2004/07/22メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 47回この商品を含むブログ (97件) を見る 「わしは、あらゆる時間・空間を超えて偏在してきた」と主…

「マーリオと魔術師」/トーマス・マン

トーニオ・クレーガー 他一篇 (河出文庫)作者: トーマス・マン,平野卿子出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2011/01/06メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 9回この商品を含むブログ (8件) を見る 1920年代、ファシズムの支配下にあったイタリアを舞台とし…

「トーニオ・クレーガー」/トーマス・マン

トーニオ・クレーガー 他一篇 (河出文庫)作者: トーマス・マン出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2016/07/29メディア: Kindle版この商品を含むブログを見る トーマス・マンの小説って、いままでほとんどまともに読んだことがなかったのだけど、いやー、…

『供述によるとペレイラは……』/ アントニオ・タブッキ

しばらくまえに『インド夜想曲』を読んだときから、タブッキのふわふわと心地よい文体のことが気になっていて、『供述によるとペレイラは……』にも手を出してみた。本作におけるタブッキの文章は、ゆったりとして、装飾や比喩表現も控えめ、ほとんど簡素とも…

『ハローサマー、グッドバイ』/マイクル・コーニイ

こういうタイトルの作品は、いまの季節にこそ読まなくっちゃね!とおもって買ってきた。少年と少女のさわやかな恋愛の模様を描きつつも、周りの世界――太陽の光を受けてきらきらと輝く、海辺の町――があれよあれよという間に姿を変え、最終局面を迎えていって…

『初夜』/イアン・マキューアン

タイトルの通り、とあるカップルの初夜を描いた中編。近年のマキューアン作品の特徴といえば、流れるような文体にきめ細やかな心理描写、かっちり構築されたプロット、いかにもイギリス人って感じのアイロニーなんかが挙げられるとおもうけれど、本作でもそ…

『灯台守の話』/ジャネット・ウィンターソン

これはすごくよかったなー。全編に漂う、凍える夜や小さな光、静かな海のイメージが印象に残る、素敵な小説だった。舞台はスコットランド北西部。寒々しく、何もないような荒涼とした土地で、母を亡くした少女シルバーは盲目の灯台守の老人、ピューに引き取…

『闇の奥』/ジョゼフ・コンラッド

黒原敏行による新訳。ぞくぞくするような語り口が魅力的な、濃密でパワフルな中編だった。ベルギーによるコンゴの植民地化によって原住民とヨーロッパ人の双方が被ることになった不気味な変化を探ろうとする、ポスト・コロニアリズム的な小説として有名な本…

『ひと月の夏』/J・L・カー

1920年の夏、イングランド北部の村にやって来た第一次大戦の負傷兵と村の人々との交流を描いた作品。負傷兵の青年は教会の壁画修復を仕事にしており、夏のひと月ばかりのあいだだけ村に滞在する。彼は壁画を復元したり村人の子供たちとたわむれたり、牧師の…

『ナンバー9ドリーム』/デイヴィッド・ミッチェル

500ページ以上ある大作だけど、ページ数以上にボリューム感のある小説だった!物語の舞台は日本で、まだ見ぬ父親を探しに、屋久島から東京にやって来た少年が主人公。“父親探し”がストーリーの軸になってはいるのだけど、夢だか現実だかよくわからないような…

『愛人(ラマン)』/マルグリット・デュラス

記憶についての、そしてイマージュについての小説。これだけ繊細で微妙な、しかも派手さのない作品が、フランスでは150万部のベストセラーになったっていうのはちょっと驚きだ。マルグリット・デュラスは、自身の少女時代、仏領インドシナでの中国人青年との…

『クラバート』/オトフリート・プロイスラー

18世紀ドイツ、ポーランド辺りを舞台にしたファンタジー。1971年発表の作品だから、いわゆるファンタジー小説の黎明期に書かれた、古典というやつだ。家を持たず、放浪の生活を送っていた少年、クラバートは、ある日夢のなかで聞こえてきた声に導かれるよう…