Show Your Hand!!

本、映画、音楽の感想など。

日本文学

『三四郎』/夏目漱石

小川三四郎という青年が熊本の田舎から東京にやって来て、粗忽者の友人や風変わりな先生、謎の女性らと出会う、そのとりとめもない日常を描いた作品だ。扱われるエピソードはどれもごくささやかなもので、まったく派手さはない。三四郎がふらふらとあちこち…

『女のいない男たち』/村上春樹

村上春樹の2014年作。短編集としては、前作『東京奇譚集』から9年ぶりの新作ということで期待して読んだのだけれど、これは素晴らしかった。『1Q84』あたりから、村上の作品の雰囲気はそれまでよりぐっと静謐なものになっているように感じられていたのだけれ…

『サマータイム』/佐藤多佳子

サマータイム (新潮文庫)作者: 佐藤多佳子出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2003/08/28メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 35回この商品を含むブログ (99件) を見る いつもよりちょっと早起きした休みの日、薄曇りの空から落ちてくる太陽の光はやわらかく、風…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』/村上春樹

今作の基本的なトーンというのは、いままでの村上の小説を読んできた読者にとってはおなじみのものだ。主人公の多崎つくるは、(例によって)内向的で自己完結的、他者と深く関わることのない生活を送っており、生きることに対して積極的な関心を持っていな…

『なつのひかり』/江國香織

江國香織の95年作。タイトル通り、白っぽい日差しや湿った匂い、けだるさ、客のこない小さな商店、田園、砂浜などといった、夏のイメージが全編からただよってくる、ちょっとシュルレアリスティックな匂いのするのファンタジーだ。江國作品らしく、登場人物…

「憤死」/綿矢りさ

ちょっとまえの『文藝』にて。綿矢の作品のタイトルはなかなか印象的なものがおおいのだけど、今回も、おーそうきたか…っておもわせるようなインパクトのあるタイトルだ。"憤死"するのは、物語の語り手である主人公(♀)の女ともだち、佳穂。彼女は、彼氏に…

「秋」/芥川龍之介

姉妹と従兄の三角関係を描いた短編。小説家になりたかった主人公の信子と、同じように文学を志す従兄の俊吉は互いに惹かれ合っていたはずだったが、どうやら妹の照子も俊吉のことが好きらしい、ってわかった途端に信子はあっさりと身を引いて他の男と結婚し…

『音楽』/三島由紀夫

ある日、精神分析医の汐見のもとを訪れた美しい患者、麗子。彼女は「音楽が聞こえない」と言うのだが…! 昼メロ風のプロットを用いて、性の深遠さ、神聖さに近づこう、という感じの、バタイユ臭がぷんぷんする一作。「わたくし、音楽が聞こえませんの」に始…

『ビッチマグネット』/舞城王太郎

思うに、この世のある部分の人たちは、誰かの本当の気持ちをそのまま話されることに耐えられないのだ。自分たちの本当の気持ちも言葉にすることができないし、そうしようとも思わないものなのだ。 ひょっとしたらそういう人の一部が物語を創るんだろう。そう…

『ルート350』/古川日出男

本がそれなりに好きな人なら誰しも、おいおいここに書いてあるのってまさに自分のことじゃん!とか、自分のなかにあるもやもやした気持ちのことをなんてうまく言葉にしてるんだろうこの文章は!なんて感じたことがあるんじゃないだろうかとおもう。そんな感…

『煙か土か食い物』/舞城王太郎

ひさしぶりに舞城王太郎のデビュー作を読み返していたのだけど、やっぱりすっげーおもしろいな!とおもった。とにかく無敵で行く手を阻むもの全てを吹っ飛ばしていく魅力的なキャラクターと、その内言を圧倒的な勢いで繰り出していく饒舌過ぎる文体が最高だ。

『1Q84 BOOK1・BOOK2』/村上春樹

読み終わってからもうほとんどひと月が経つのだけど、どうにもうまく感想がまとまらなくて、日記に書くことができないでいた。でもそろそろ何か書き残しておかないと忘れてしまうかもなので、とにかくがんばって何かしら書いてみることにする。あるいはこの…

『君は永遠にそいつらより若い』/津村記久子

芥川賞作家、津村記久子のデビュー作。序盤は卒業をひかえた大学4年生の冴えない女子、ホリガイのゆるい日常が冷めた言葉でつづられていく感じなのだけど、中盤以降はリストカット、虐待、自殺などなどヘビーな問題が次々に浮かび上がってくるようになる。俺…

『カツラ美容室別室』/山崎ナオコーラ

ひさびさに本棚を整理していたら出てきた『文藝』の2007年秋号に掲載されていたもの。もういまでは単行本も出版されている。見つけた『文藝』はぱらぱらっと見てすぐに捨ててしまうつもりだったのだけど、予想外に気に入ってしまって、つい一息で読んでしま…

『LOVE』/古川日出男

三島由紀夫賞受賞作。現代の東京を舞台とした、短編っぽい雰囲気を持った4つの物語と4つの間奏からなる小説だ。時間のあるポイントに的をしぼり、そこでの人々の刹那的な邂逅を描いた群像劇。手法的には、作中の人物が2人称の語り手として登場することだ…

『ボディ・アンド・ソウル』/古川日出男(その2)

『ボディ・アンド・ソウル』の語り手は、作家本人をおもわせるフルカワヒデオ、であるので、かなりストレートに気持ちや意見を吐露しているように感じられる文章が多い。古川日出男の他の作品でもよく語られていることだとはおもうのだけど、彼の小説に関す…

『ボディ・アンド・ソウル』/古川日出男

小説家であるフルカワヒデオ自身を語り手として、日常のいろいろ――食べ、飲み、散歩し、妄想し、語り、書き、読み――がどんどん描かれていく小説。その語りはひたすらに饒舌で、とにかくエネルギッシュだ。書かれている内容はいっけん日記風でありながらも、…

『聖家族』/古川日出男

これはすごかった!おもしろいとかおもしろくないとか言うよりも、まず、すげえ!って言いたくなる小説。だいいち、分厚すぎるし(二段組みのくせに700ページオーバー!)、細かい特徴、気になる要素を挙げていったらキリがないけど、読んでいくうちに、…

『くっすん大黒』/町田康

俺は、メディアに露出多くしている作家、というのをあまり信用しておらず、だからパンク歌手などといった肩書きのついた作家である町田康なんて、どうせパンクと言いつつもその実サブカル好きに媚を売った腑抜け野郎に違いないのであって、自分には関係ない…

『ファミリー・アフェア』/村上春樹

80年代の短編集、『パン屋再襲撃』に収録されている作品。台詞はいちいち気のきいた感じだし、展開もまあ予想から外れることのない、わりとリラックスした雰囲気の短編だ。主人公の「僕」は27歳。何年ものあいだ妹と2人暮らしをしていたのだけど、妹は…

『明け方の猫』/保坂和志

夢のなかで猫になった人間を、その夢の内側から描いた小説。主人公は猫の身体に人間の思考を持っている、って設定だから、猫を描写した小説というわけじゃなくて、記述の仕方が猫的な小説、とか言った方がたぶん近い感じ。人間の感覚・論理と猫の感覚・論理…

『窓の灯』/青山七恵

青山七恵のデビュー作。大学を辞めたまりもは、よく通っていたスナック風喫茶店で住み込みバイトとして働きながら、退屈な日々を送っている。最近の日課は、向かいのアパートに越してきた男の部屋を観察、というか覗き見することなのだけど、特に大した理由…

『青空感傷ツアー』/柴崎友香

会社を辞めた26歳の芽衣は、6コ下のむちゃくちゃ美人かつわがままな女友達、音生と2人で、大阪→トルコ→徳島→石垣島へとふらふらと旅しつづける。っていう、まあそれだけの話。でも、それだけで十分におもしろいのがこの小説の素敵なところだ。柴崎友香っ…

『ベルカ、吠えないのか?』/古川日出男

古川日出男の小説の、ケレン味に満ちたキメキメな文章、大仰な感じが俺はどうも得意じゃない。いやー、そんな盛り上がられても…、とかおもっちゃったりして、テンションがうまくついていけないのだ。ただ、これは犬たちを描いた作品だ。犬ってやっぱワイルド…

『1973年のピンボール』/村上春樹

何年ぶりかに読み返したけど、うーん、やっぱりこれもいい小説!俺は村上春樹は初期の作品がすきだなー。いろんな意味でイタい感じも含めて。『風の歌を聴け』に続く、「僕」と「鼠」の物語なんだけど、前作と比べるとずいぶん感傷的だし、乾いた感じよりは…

『風の歌を聴け』/村上春樹

高校生のころの俺のバイブルだったこの小説を久々に読み返していたんだけど、自分がこの作品からどれだけあからさまに影響を受け、方向づけられてきていたか、ってことにいまさら気がついて本当にびっくりした。いままで自分の頭でかんがえたことなんて何ひ…

『アクロバット前夜』/福永信

[rakuten:book:10977463:image] asin:4898150470 これはおもしろい小説!まず状況のありえない感がおもしろいし、そのありえない状況に対する登場人物の反応のありえなさ、それを描写する文章の視点が変で、ついついわらってしまう。こういうのは、シュール…

『青色讃歌』/丹下健太(その3)

『青色讃歌』の主人公、高橋は就職活動をしている。だから会社に面接を受けにに行ったり履歴書を書いたりするところが小説には描かれているんだけど、どうせだったら証明写真を撮るシーンも書いて欲しかったなー、と読みながらかんがえていた。高橋がどこか…

『青色讃歌』/丹下健太(その2)

前回、あっちとこっちの区分って感覚がうんぬん、みたいな話を書いたけれど、そういうのは、こんな会話によく表れている。 「そういえば、俺そっちに行くことになったから。仕事決まったんで」 自分から大西に対してそんなことを言ったことに高橋は驚いた。 …

『青色讃歌』/丹下健太

第44回文藝賞受賞作。同時受賞の『肝心の子供』が最高だったので(id:hayamonogurai:20071228)、なんとなくあまり期待していなかったのだけど、いやいや、こっちもかなりいい小説だった!一言で言うと、主人公の高橋(28歳・フリーター・♂)の、何でも…